頭位回旋位と椎骨動脈血流の変化
椎骨動脈は頸椎の横突起を貫き第一頸椎で蛇行し
後頭骨の大孔から脳底動脈へと続きます。
この動脈は脳幹の栄養もしています。
椎骨動脈の唯一の蛇行部である第一頸椎は第二頸椎に対し
左右に45度程度回旋しますが
この時、個々の状態によっては椎骨動脈の還流に影響があるかもしれません。
Mechanical compression of the extracranial vertebral artery during neck rotation
https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/47446/
によれば
”頭位回旋時椎骨動脈血流遮断は、1108 例中 55 例(5.0%)に認めた。非特異的な椎骨脳
底動脈系の症状(めまい、ふらつき、意識消失感、霧視など)の既往を有する 136 例では、症状がない群に比し有意
に椎骨動脈頭位回旋時血流遮断の陽性率が高かった(9.6% vs 4.3%、p=0.008)”
とあります。
そんなに高い割合ではないにせよ、人によっては頭位回旋時(頸椎回旋)に椎骨動脈の血流遮断があるようです。またもともと既往歴のある人は、先天的に椎骨動脈が細かったりする事があるようです。
椎骨動脈が細いかどうかは、外部からでは分かりません。頸椎への回旋手技や強度の押圧はやはり危険性が高いと言えます。
中高年者になると動脈硬化により椎骨動脈かい離が高頻度で見られるようです。
一方で、健常人において頭位回旋は椎骨動脈の還流に影響がないとする研究もあります。
椎骨動脈および内頸動脈の血流と大脳への流入量に関する頸部痛に対する徒手療法介入の影響
http://jspt.japanpt.or.jp/eibun/2014/1402_1.html
”本研究の結果から徒手療法で一般的に使われる頭頸部の肢位が脳への血流量に対しリスクをもたらすことは示唆されなかった。また回旋の最終域と牽引を用いた肢位が脳循環に対して有害であるということも示唆されなかった。頚椎に対する徒手療法の安全性、特に上位頸椎の回旋に関する安全性は疑問視されているが、本研究で用いた頭頸部の肢位は中間位と比べ血流に有意な変化は見られなかった。よって本研究の結果から頭頸部の肢位自体が血流に及ぼす影響は少ないということが示唆された。今後は動脈の状態や徒手療法の治療手技により頸椎に加わる力の影響などほかの要因に対する検討が必要である。 ”
当院ではめまいや頭痛、頭重感などの症状が強い人に対しては
研究目的で前頭部の皮膚温度を、頭位を変えて測定することがありますが
極端な温度変化が起こる人はまれです。
逆を言えば、頭位変化により何か症状が強く出たり、温度変化が優位に表れる人は
注意が必要と言えます。
椎骨動脈の蛇行する第一横突起部は頭位回旋位において回旋側が後方へ滑ります。
その結果回旋側の椎骨動脈は牽引され、血流に影響はありますが
脳自体への血流は反対側の椎骨動脈の血流が増すため変化はないようです。
上部頸椎サブラクセイションの条件の一つとして
椎骨動脈血流の変化による脳への影響を考えていましたが
絶対条件にはなりそうにありません。
しかしながら強度の頭位回旋位(10°以上)が日常的にある人と無い人では
血管内の還流に影響しそうです。もしかしたら椎骨動脈解離なども予防できるかも知れません。